Impression~心の声
「なんだか、深いね、、。」
 許せるか、許せないか、、。好きとか嫌いって言葉よりももっと角が取れていて、柔らかい言葉に感じた。まるで何かのクッションのように、、。
「なんかさ、逃げ場をつくるって感覚ではないけど、、。なんか良い考えに感じるよね。」
 香織はそういてオレンジジュースを飲み干した。
 どうして香織は今急にこの話をしたのだろう、、。だけどまたなにかヒントを与えてくれたのかもしれない、私はどこかでそう感じていたと思う。だけど私は香織のお母さんそしてお婆さんの言葉を今でも大切にしている。私の大切な言葉の宝箱の中に、、。
 私たちは食事をして、それからたっぷり語り合った。私の中で香織って言う存在はやっぱり大切だって、なんだか再確認をした気がした。
 それから数日私は何もしなかった。部屋にこもって、本を読んだり、、。ガラスの小皿を眺めたり、絵を書いてみたり。テレビもパソコンもつけなかった。だけどどこかに香織の言った言葉だけが引っかかっていた。待ってるだけじゃだめだって自分が一番わかっているはずなのに。そうする以外の決定的な決断が出来ないでいた。
私は階段を下りた。ダイニングで母がハンカチに花の刺繡をしていた、昔からの母の趣味。幼稚園や小学校の頃はよく給食袋や文房具を入れる巾着を、母はこの刺繡を使って手作りの物を私に作ってくれた。それはとても暖かい思い出だった、母が私の母でよかったと私は思った。
私はそっと母の背中を見つめた。その背中は心なしか小さくなった気がした。思い返して見れば私は母に沢山の苦労をかけてきた。何時の間にこんなに小さくなってしまったんだろう。またそこで時間の流れの怖さを知った気がした。もう二度と大切な物をなくしたくは無い。
私は母の向かい側のソファーに座った。母は一瞬顔を上げて、口には出さなかったが、あら、珍しいわね。とでも言いたそうな口を作った。
そんな母に私は徐に質問をした。
「お母さんはさ、お父さんのどこを好きになったの?」
 唐突な私の質問に母は少し驚いたようだったが、落ち着いて緩やかにその答えを私に教えてくれた。
「信頼することが出来たからかな。」
「信頼?」
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