Impression~心の声
「そう、心から信じることの出来る人だった。」
 そして母は続けた。
「偽り飾らないお父さんの人柄が大好きだった。」
 母は私のほうを見て微笑んだ。〝信じる〟私はその言葉の意味を深く考えようとした。だけどいざその言葉を深く考えようとしてみてもあまりに取り留めもなく、茫漠としていて答えをつかめそうにはなかった。
「どんなことなのかなぁ、信じることって。」
「その大きな答えを一言で表すのは難しいことだけど、確かだと信じてお互いのことを受け入る事だと私は思うわ。そして相手を尊ぶ心を持つこと。」
 尊ぶ、その言葉を聞いて真っ先にあの白いムクゲの花が思い浮かんだ、、。それと同時にこの言葉を、、。
「尊ぶ?それは相手を尊敬するってこと?」
「そうね、凄く似てるわね。」
 誰かをそんなふうに信じたいと思った。もしかしたら誰かを信じるって凄く素晴らしいことなんじゃないかなって私は思った。世界にたった一人で良い本心から信じることの出来る人が見つかった時私はきっと一人ではなくなるんだって、、。
「これを見て。」
 私はそう言ってポケットから青いトンボ玉を取り出した。
「きれいな青をしてるわね。」
 勇が作ったものをほめられるとなぜか私までほめられているような感覚になり、自然と笑みがこぼれた。
 その夜は母一緒に食事を取った。たった二人の家族だって言うのに一緒に食事を取ったのは、ずっと昔のように感じた。一秒一秒が私の大切な時間だった。
 「お母さん、一緒に沖縄に住んでみない?」
 お母さんは笑ってそんな生活もいいかもね、と微笑んだ。
 部屋に戻り私はベッドに仰向けに寝転がった。両手を組みそれを枕にして天井を見上げた。お母さんはきっとさっきの言葉を信じてはいないだろう、、。だけどなんだかおかしくて笑ってしまった。唐突に沖縄に住もうだなんて、、。
「はぁ、、。」
 私は小さくため息を吐いた。
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