Impression~心の声
勇はそう言ってまだ幻の私を見ているかのように慌てていた。
「会いに来たよ。」
 勇ははにかんで落とした作品を引き上げようとしていた。
「何を作っていたの?」
「光る、イルカだよ。暗いところで光るんだ。」
 そこにはピンク色をした歪なイルカが落ちていた。
「特殊な材料を練り込むんだ。」
 良く見るとつぶつぶした蛍光色の四角い石がちりばめられていた。何時見ても勇の作品は心が和んだ。新しく作ったものも興味をそそられた。自然と胸の辺りがほわっと暖かくなるのを感じた。
「作業が一段落したら一緒に砂浜を歩こうよ。」
 勇は、今しているものは急ぎではないからといって一端切り上げるといい作業スペースを少し片付けた。
 勇は帽子をかぶり裏の浜へ続く扉を開けた。その瞬間さすようにまぶしい白い砂浜が広がった。その光は強すぎて、目にとげが入ってしまったように私は一瞬目を伏せた。やがて目がなれ広がる砂浜に目をやると勇はもう、砂浜に2,3歩の足跡を残していた。
私もそれに続きドアの外に駆け出した。
「待って。」
 勇の足跡の隣に私の足跡が残った。足を止めて振り返った勇の隣に私は立った。
「暑いね、夏真っ盛りだね。」
 勇は頷いた。ふと勇の横顔を見上げると、額に透明な粒の汗をかいていた。私はポケットからハンカチを取り出した。
「はい。これ、勇にあげる。」
 勇はそのハンカチを広げてみた。
「これ?ムクゲの花?」
 私は頷いた。私は母に刺繡を習い勇のためにムクゲの刺繡を施したハンカチをプレゼントした。
「これも見て。」
 私はもう一枚のハンカチをポケットから取り出した。
「ハイビスカス?」
「うん、、。おそろいのハンカチ。私の始めての作品。」
「素敵だよ。自分で物を作り出すって、、、いいことだったろ?」
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