幼馴染みの夢
「付き合ってんの?」

「あ?」

「マリちゃん?最近、良く会ってんでしょ?」

深夜の寮の食堂。寮と言っても、ワンルームマンション。

ご飯だけ、自炊しなくても大丈夫なように、食堂がある。

いわゆる管理任さんのおばちゃんが親代わりになって世話してくれる。

今夜も、遅く帰った俺と真樹のために、夜食のうどんを作ってくれた。

うどんをすすりながら、真樹が真面目に聞いてくる。

「さぁ。」

「ふぅん。」

「何?」

「俺、濂くんはずっと彼女いるんだと思ってた。」

「ぶっ!彼女?」

「きったないなぁ……もう。別れたの?」

「別れた?誰と?」

「だから、彼女と。」

「俺、彼女なんかいねぇけど?」

「…………そっか。濂くんは、そういうタイプなんだ?」

「なにがだよ?どんなタイプだよ?」

「ご馳走様!おやすみぃ!」

「おい、真樹!」

「マリちゃんによろしくね。おやすみ。」

手をヒラヒラ振って出ていった。

マリちゃん。

モデル出身のタレント。

同じ高校。同じクラス。

話も合うし、仲良かった。
卒業してからも、仕事場で一緒になったりするから、どちらからともなく誘っては食事に出かけたり。

でも、付き合ってるわけじゃ決してない。

「濂の実家に行ってみたいな。」

とりあえず、成り行きでリクエストに答えることになってる。

明後日の金曜日。


「俺、彼女なんかいたっけ?」


うどんをすすりながら、考えてみる。


いねぇよな?


告白まがいの事はしたこともあるけれど、たったのひとりにだ。





お袋、元気かな。

ずっと帰ってねぇから急に帰ったら、驚くかな。


久しぶりに帰る我が家に、少しだけ、興奮してる自分がいた。

その時は、まだ、なんにも思い出してなかった。

忘れたことすら忘れたことにしたこと。

真樹が言った「彼女」とは………

一瞬もよぎらなかった。
と言えば嘘になるけれど。

彼女じゃない。

俺には、仕事しか見えていなかったから。

俺の中から、消えたことにした。

幼馴染みの存在
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