幼馴染みの夢
何故か三曲抜かしてスタンバイを始めた冬馬。

冬馬から一番近い立ち位置の龍がテンパってマイクを通して呟いた。


「冬馬、どこ?」


見た目には、失敗も、笑いに変えられる。

龍の呟きが冬馬のイヤモニに届き、間違いに気付いた冬馬。

慌てて、マイクを口に当てた。

ダッシュしながら必死な歌声。

最悪な歌が終わると同時に現れた冬馬。

その手が、体が震えていたのを知ってるのは、きっとメンバーだけ。

アンコールが終わり、楽屋に戻った俺たちを待っていたのは、リーダーの沈黙。

このリーダー。

本気で怒ると沈黙を保つ。

長い付き合いの俺ですら、話しかけられない。

冬馬に至っては、失神寸前と言っても良いだろう。


「もう一度、流れ、確認するか?」


あとは、東京公演三日分を残すのみ。

今更流れの確認でもないはず。

でも、今の俺たちには、必要なこと。

初日の緊張感を戻す必要があった。


「進行表、出して。」


部屋の住人、真樹がバッグから進行表を出してベッドに広げた。

冬馬の為。

自分の為。

コンサートを楽しみに来てくれるみんなの為。

それぞれがもう一度、気合いを入れなおした。









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