This is us



傘を広げて下校していく生徒がぼんやりと視界に入った。


走って帰るか…。


そう思ってローファーに履き変えた時。


隣のクラスの下駄箱に、人影が見えた。



その姿を瞳に映した刹那、心臓が大きく鳴って。


ピンクの傘を手に持った小田切と目が合った。



しかしすぐに逸らされ、彼女はそのまま傘を広げる。


行ってしまう…。


そう思ったら、足が勝手に動いていた。


「小田切」


雨の音に、掻き消されぬように。



「待って」



振り返った彼女の瞳は、大きく見開いていて。


今にも泣き出しそうな、切なさを帯びた色で光っていた。



「………」


黙ったまま、ただじっと俺を見つめる。



「あの…さ」


何て言ったらいいんだろう。


「話が…ある」


「話…?」


いつもより低くて、小さな声。


「だから…か、傘…入っていい…?」


しどろもどろな自分に、ひどく恥ずかしさが募る。


「方向逆だけど…」


「あぁ、送ってくよ」


そう言うと、小田切は俯いて傘を俺に差し出した。


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