This is us


「痛かったよな…」

「ううん…」

「嘘つくな」

絆創膏を二枚並べて貼る。
肘と膝にも、擦り傷ができていた。

それなのに、彼女は何でもないように小さく笑う。

「私なんかの痛みよりも…香川さんの痛みの方がきっと辛いと思うから…」


俺は面を食らった。

自分を傷付けた相手を憎むどころか、心配して。

「…んなことねぇよ」

何て返したらいいのか、分からなかった。

何故か心が軽くなるのを感じて。

俺はそんな彼女に恋をして、本当に良かったと改めて思った。

どうしようもなく愛しくて。

運動部のかけ声が遠くで聞こえる中、彼女を抱き締める。

強く強く、彼女の温かさを全身に感じて。

「…好きだから」


自分が自分じゃないみたいになる。

きっとそれは紛れもなく本当の自分で。

彼女に出逢ってから知る、人間らしい自分なんだと静かに思った。


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