This is us


「お前の親父は?」

「うーん…気難しいって言うか、頑固ですごく厳しい、かな」

さとりとそのお母さんの性格と正反対だ。

「だから、昔から怒られてばかりで…にが、て…なんだよね」

繋いだ手から、伝わる震えにただならぬ不安が広がる。日が傾き始めて、風がさわさわと新緑を靡かせた。


「何か、あったのか?」

その問いに、さとりはすぐに答えようとはしない。暫くそのまま歩いていると、彼女のマンションが見えてきた。

「…ううん。別に何もないよ」

彼女は嘘をつくのが下手だ。

あれだけの間を置いて、何もないわけがない。


「松川も心配してた。何かあったんなら、話くらい聞くし…」

「今度また学力テストがあるでしょ?だから、勉強頑張らなきゃなーって…私もちょっと本気で勉強しないとね!」

「だったら、おしえ…」

「大丈夫!自分の力で頑張ってみるから、ありがとね…」

俺の言葉を遮って、さとりはガッツポーズをするけれど。空元気のような、しっくりこない彼女の態度に不信感が募る。

「よし、これから帰って勉強しなきゃ…送ってくれてありがとう。また明日学校でね!」

「…おう」

手が離れて、その瞬間に胸の奥がざわざわと狭くなる感覚がした。

苦しいような、痛いような。


久しぶりに感じた、"傷付く"に似た"不安"。

人間不信になった俺だから分かる、距離感や偽り、哀しみ。

突き放される虚しさ…。


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