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Side Satori



言いたかった。言えなかった。

結城くんがお父さんを尊敬してるって聞いた瞬間、羨ましく思うと同時に、きっと分かってもらえないんじゃないかって思ってしまって。

喉まで出かかった言葉を飲み込んでしまった。

"私は、お父さんが嫌い"

なんて、言えない。

大好きな部活を辞めたくなんてない。
勉強勉強ってそれしか言わないお父さんなんて、全く尊敬出来ない。

「おかえり」

「ただいま…」

家へ帰ると、お母さんがキッチンから顔を出した。炒めものをしているのか、油のジャーッという音が響いている。

私はリビングのソファーに腰を下ろし、テレビの電源を入れた。
別に見たい番組があるわけではなかったけれど、お母さんと二人きりの空間に少し気まずさを感じて。

お母さんは変わらず鼻歌を歌いながら、夕飯の準備をしていた。

「さとり、部活どうするの?」

クッションに顔を埋めたまま、私は返事が出来ない。

どうするの?って言われても、きっと私に選ぶ権利なんてないから。

「お母さんは続けて欲しいな…って、さとりが一番そう思ってると思うけど」

「…でも辞めなきゃいけないんでしょ?」



私はくしゃくしゃになった前髪を整えながら、ぶっきらぼうに言った。


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