This is us



「何してんの?」


「結城…くん…」



顔を上げた小田切の瞳には、涙が溜まっていて。


小さく震える彼女は、まるで捨てられた猫のようだった。


「…何か、あったんか?」

ポロポロと大粒の涙が落ちていく。


隣にゆっくりと腰を下ろして、鞄を漁るけれど。


タオルを持っていなかった俺は、駅でもらったポケットティッシュを差し出した。


「ありがと…」


泣く程、あいつが好きだったのだろうか…



俺には、そういう経験がないから全く分からない。


誰かを好きになったり、大切に想ったり…そんな恋愛なんて、俺の人生には存在しないって思ってた。



「…相原くんに、嫌われちゃった…」


そう言って小田切は、渇いた笑みを浮かべる。


「…そっか」


俺は何て言ったらいいのか、分からなかった。


ただ、何かに首を絞められたように苦しくて。


息をすることさえ、苦しくて。


手で顔を被って泣いている彼女に、


触れたい



そう思った。


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