天空のエトランゼ〜レクイエム編〜(前編)
「ケッ!」

男の言葉に、ジェースは頭をかき、

「これだから、公僕は!」

その場から歩き去ろうとした。

「…お前の失ったオウパーツの件は、進展がない。だから、こいつらを誘き寄せている」

男は、足元に煙草を捨てると、体重をかけて踏み潰した。

「しかしな。それ以上の混乱が起きているらしい」

「混乱?」

ジェースは、足を止めた。

「ああ…」

男はもう一度、空を見上げて目を細めた。

「?」

ジェースも、空を見上げた。

満天の星空が、眩しかった。

「空が…割れるらしい」

目を細めたジェースの耳に、男の言葉が飛び込んで来た。

「空が、割れる?」

ジェースは思わず、視線を男に向けた。

「ああ」

男は頷き、

「恐らくは…空間にヒビが入っているのだろうな」

腰を屈めると、吸殻を拾った。

「どういうことだ?」

眉を寄せたジェースを見ずに、男は虚空を見つめながら、話を続けた。

「これは、俺の推測だが…異世界との壁が開いているのかもしれない」

「異世界?」

目を見開いたジェースに、男は苦笑すると、逆に背を向けて歩き出した。

「詳しいことは、わかり次第、報告するよ」

後ろ手を軽く上げると、男はゆっくりと歩き去った。

「チッ」

その後ろ姿をしばし見送った後、ジェースは舌打ちした。

そして、男とは反対方向へ歩き出した。


その様子を、途中で振り返りながら見送った男は、足を止めた。

「オウパーツを奪ったのは、やつらと思っていたが…違う可能性があるな」

グレーの背広の男の名は、田所純一。

もと防衛軍の戦士であったが…今は、刑事をしていた。

田所は前を向くと、再び歩き出した。

(だったら…誰が?)


ジェースの仲間であった…左腕のオウパーツを移植された女…玲奈。

彼女は、戦いの中でジェースを庇い…死亡した。

彼女の遺体は、ジェースの手によって、埋葬された。

誰も知らない場所に。


しかし、墓は掘り起こされ…玲奈の遺体とともに、オウパーツも奪われたのだ。
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