天空のエトランゼ〜レクイエム編〜(前編)
「女神…」

サーシャは、そんな理香子の気持ちを女としては理解した。

しかし…。

「わたしには、理解できません」

サーシャは軽く、理香子の横顔を睨んだ。

「え」

予想外の答えに、驚く理香子。

サーシャは軽く深呼吸すると、自らの思いを口にした。

「我々ブルーワールドの戦士は、レベル百…つまり、神レベルに近付く為に、日夜血が滲む程の努力をしていました。だけど…そのレベルまで到達した者は、皆無に等しい!神の力があれば、どれ程の人間を救えることか」

「そうね…」

サーシャの熱い言葉に、理香子は睫毛を伏せた。

そして、数秒黙った後に、言葉を続けた。

「ブルーワールドにいる人間ならば、そう願うわね。だけど、あたしは…そんなことを願わなくてもいいような…この世界を創った。だけど…」

理香子は、屋上を囲む金網に近づき、

「この世界に産まれた人間達が、今…崩壊の危機にさらされている。それを救う力が…今のあたしにあるかどうか」

金網の隙間に指を入れて、握り締めた。

「女神…」

「今のあたしは、無力。愛する人を1人…守る力しかない。そして、親友と肩を並べて戦えるくらいしか…」

女神であるはずの理香子の苦悩を垣間見て、サーシャは黙り込んだ。

(…別に、月の女神の力をあてにしていた訳ではない)

サーシャは、理香子から視線を入口の方に向けた。

開いた扉の向こうに、心配そうな中島が立っていた。

(愛する人か…)

サーシャは無意識に、左手の薬指を触った。

今はなくした…指輪がはめてあったところ。

「…」

サーシャは、理香子の背中に頭を下げると、扉の方へ歩き出した。

無言で、中島の横を通り過ぎると、階段を降りていった。

「相原…」

中島は、理香子の背中を見つめながら、決してそばに近付こうとはしなかった。

自分という存在が、彼女を苦しめている部分があることもわかっていた。

しかし、それでも離れることはできなかった。

理香子にとっても。

何故ならば…2人は愛し合っているからだ。
< 106 / 295 >

この作品をシェア

pagetop