天空のエトランゼ〜レクイエム編〜(前編)
「うん?何か薄暗いわね」

屋上で理香子が苦悩している頃、同じ校舎の真下を歩いていた結城里奈は、足を止めた。

まだ昼間だというのに、夜になるかのように…ゆっくりと日が落ちていく。

そして、闇に変わった。

さっきまでの喧騒が嘘であるかのように、静かな闇が世界を包んでいた。

ちらっと窓の外を見たが、闇しか見えない。

いや…里奈の目には、自分の姿さえも見ることができない。

光なき世界では、色も景色もない。

(畏れるな)

里奈は見えなくても、確かにあるものを確認した。

まずは、足場。

次に…。

「装着!」

乙女ケースを握り締めると、里奈は叫んだ。

闇に、赤い光が一瞬輝くと、里奈は乙女レッドへと変わった。

顔にかかった眼鏡のレンズに、廊下の様子が映った。

(やはり…学校の中)

周囲を確認する為に振り返ろうとした瞬間、蹴りが飛んできた。

「な!」

咄嗟に、後ろにジャンプして、その攻撃を交わしたが…頬が切れた。

「月の戦士よ。その脆弱な力で何をする?ただ目的もなく、存在するならば…消えよ!」

「人間!?」

相手を確認し、再び構えようとするが、それをさせない。

鋭い手刀と蹴りが、交互に乙女レッドに襲いかかる。

「な!」

乙女レッドになり、運動能力が一段と上がっているのに、かわすことしかできない。

「月の防人を倒し、まずは月の結界を解く!」

攻撃パターンがいきなり、変わった。立て続けの蹴りが、槍のように伸び、乙女レッドの鳩尾に突き刺さった。

「うぐう!」

くの字に体を曲げて、後方にふっ飛ぶ乙女レッド。

そのまま、廊下を転がった。

「おかしいな」

蹴りの体勢のままで、固まっているのは…腰まである髪をたらした細身の男だった。

手と足が、普通の人間に比べて異様に長かった。

「貫く予定だったのに」

男は足を下ろすと、背中を少し曲げた。

それだけで、長い腕は床についた。
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