天空のエトランゼ〜レクイエム編〜(前編)
「どうやら…防御力は高いみたいですね」

男は両手と両足で、床を蹴った。

「次は、串刺しにします」

信じられないスピードで、何とか起き上がろうとする乙女レッドの背中に向けて、襲いかかる男。

「な、舐めるな!」

振り返る乙女レッドの手に、いつのまにか剣が握られていた。

背中を向けることで敢えて隠していた横凪ぎの斬撃が、男を斬り裂いたはずだった。

「え!」

男の手が、剣を掴んでいた。

「惜しいですね」

乙女ソードに、男の血が流れる。

「あり得ない!」

「そんなことはないですよ」

男はにやりと笑うと、もう片方の手で、乙女レッドの眼鏡を叩き落とした。

変身が解けると同時に、剣も消えた。

「少しは、戦い慣れているようですが…決意が足りない!」

男は、目を見開いている里奈の額に、頭突きを喰らわした。

「う!」

低い声を上げて、里奈は再び廊下に倒れ、そのまま気を失った。

「人を殺す決意が」

男はゆっくりと立ち上がると、血塗れの手で手刀を作った。

「どうせ…近い内に死ぬのです。せめて、楽に殺してあげましょう」

そして、里奈の首筋に突き刺そうとしたが、途中で止めた。

廊下の向こうから、近づいてくる足音が聞こえたからだ。

「驚きましたよ。まさか、この空間を認知できる人間がいるなんて…」

男は里奈から離れると、闇を凝視した。

「砂の使者でもありませんね。この感覚は、人間!」

男はにやりと笑い、

「わかるんですよ。人間の臭いが!人間の存在が!だって、人間が大嫌いだから!」

再び両手を床につけた。

「この世の中の生き物の中で!人間が一番醜いから!」

まるでロケットのように勢いのついた男の体が、ゆっくりと近付いてくる学生服を着た女子生徒に突進する。

「そういうお前が…一番、醜いと思うがな」

男の突進を、体を横にするだけで避けた女子生徒は、スカートを靡かせた。



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