天空のエトランゼ〜レクイエム編〜(前編)
そんな息が詰まる授業が終わると、俺は廊下に出た。

(大金持ちも大変だな)

廊下を歩くだけで、周囲からの好奇の視線にさらされた。

「お嬢様!」

慌てて、教室から飛び出す純一郎を気にせずに、俺は廊下を歩き続けた。

(あんな騒動がなければ、普通の学校と変わらないな)

ずっと前を向いているが、周囲の気を探っていた。

(しかし…神レベルに近い程の実力者が、数人いるとは…。1人は、生徒会長。もう1人は…猫沢。それに…)

隣の校舎のどこかから、こちらを監視する目は、学校にいる間は常に感じていた。

(姿は確認していないスナイパー。あとは、月の女神か)

月の女神である理香子にもあったことはなかったが、今すぐに接触するつもりはなかった。

(彼女達がいるなら…そう簡単には、ここを攻め落とすことはできないはず)

俺は無意識に、足を止めた。

(なのに…何だ。この胸騒ぎは)

「お嬢様!」

廊下を走って追いかけてきた純一郎は、俺の斜め後ろ右手に止まると、いきなり今日のスケジュールを話し出した。

「本日、すべての授業を終えた後…パーティーにご出席のご予定が、救急入りまして〜」

(下らない)

こんな時に、パーティーをやるとは…。

呆れながら、歩き出そうとしたが…次の純一郎の言葉に、俺の動きが止まった。

「そのパーティーは、先日でライブツアーを終わらせた歌手…レダの…」

「レダだと!?」

足を止めて、俺が振り返ると、後ろにいるはずの純一郎がいなかった。

「な!?」

俺は慌てて、後ろにジャンプした。

いつのまにか、廊下の床が真っ暗になっていたからだ。

「空間に穴が空いている!?」

「あらあら、落ちませんでしたか?お嬢様」

突然廊下中が真っ暗になると、まるで…洞穴の中にいるような感覚に襲われた。

「もっとも、あなたを落とすつもりはありませんでしたけどもね。太陽のバンパイア殿」

(太陽のバンパイアだと!?)

俺の後ろに、暗闇よりも黒い影が姿を見せた。
< 123 / 295 >

この作品をシェア

pagetop