天空のエトランゼ〜レクイエム編〜(前編)
「あたしがいなくても、生徒会は安泰ね」

九鬼は確認だけとなった書類に、目を通し始めた。


「うん?」

数分後、九鬼は書類を捲る手を止めた。

人の気配がしたからだ。

ドアの方を見つめると、九鬼は席を立った。

生徒会に用があって来ても、なかなか中にまで入れない生徒は多い。

だから、こちらからドアを開けてあげるのだ。

「…」

九鬼は笑顔を作ると、ドアを開いた。

しかし、そこには誰もいなかった。

「!」

驚いた九鬼は本能で、ここにいた生徒を探した。

廊下の左側はるか向こう…一番奥で、こちらを向いて立っている男子生徒がいた。

「中島君?」

それは、九鬼のクラスメートであるが…久々の再会だった。

「九鬼」

遠く離れていたが…中島の囁くような声は聞こえてきた。

「早く…ここで出て、絶対に変身しないでほしい」

「どう意味?」

九鬼は生徒会から、飛び出すと、中島のそばに駆け寄ろうとした。


「そうだ。先に帰ってくれ。外に迎えは来る。純一郎に代わる護衛が来るまでは、学園内では1人になるが…ちゃんと守りは固めている」

中島が立つ廊下と反対側から、猫沢が姿を見せた。

「夕食までには帰る」

猫沢は、九鬼の背中を発見すると携帯を切った。




同時刻の保健室内。

「本当…無防備なんだから」

九鬼に運ばれた結城里奈は、ベットに横になっていた。

そんな里奈に近づく白衣を纏った半田。

彼女は、里奈のスカートの中から、あるものを取り出した。

それは、赤色の乙女ケース。

「ウフフフ…」

半田は、乙女ケースを指でつまむと、笑って見せた。

「憎き月の力…。今こそ、あたしに」

そして、目の前まで持ってくると、赤いボディを見つめながら、叫んだ。

「装着!」




「装着!」

九鬼の背中をとらえた猫沢は、一気にスピードを上げた。

走る彼女の体を、七色の光が包んだ。

「中島君!」

中島のそばに、駆け寄ろうとした九鬼は、殺気を感じて、前のめりに倒れるように身を屈めた。
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