天空のエトランゼ〜レクイエム編〜(前編)
凄まじい爆音と土煙の中、俺は逃げていた。

(魔力を使う訳にはいかない)

魔力を使わなくても何とかなると思っていた俺の安易な考えは、月影達の怒涛の攻撃により、夢物語と化した。

(だけど、だからこそ…逃げれる隙間がある)

爆音と爆風、さらに爆煙は…俺の姿を隠すのにちょうどよかった。

正門への道を転がりながら外れ、植木の隙間を潜ると、体育館の裏手に出た。

そこで、一息つくつもりが…どこにも安住の地はなかった。


「緑!」

拳を振り上げた乙女ダイヤモンドのパンチが、高坂に突き刺さろうとした瞬間、茂みの中から飛び出してきた俺とぶつかった。

「うわあ!」

横に倒れる高坂に変わって、乙女ダイヤモンドの拳が、俺に迫る。

(アルテミア)

人は最後の時…走馬灯のように過去を思い出すと言うが、俺の頭に浮かんだのは、アルテミアの顔だった。

(!)

その顔を見た瞬間、俺は思い出した。

その間、コンマ数秒であろう。


「名も知らぬ女子よ」

自分の身代わりになったであろう女子に向かって、高坂はよろけながらも、手を伸ばした。


「フゥ〜」

しかし、高坂の心配は無駄に終わった。

乙女ダイヤモンドの拳を、片手で受け止めている俺がいたからだ。

「間に合った」

俺はため息をついた後、にやりと笑った。

ストロングモード。

アルテミアのように、見た目は変わらなかったが…大幅に肉体が強化された。

(俺にも、使えるとは思っていたけど…)

俺は乙女ダイヤモンドの拳を握り締めると、もう片方の手で殴り付けた。

ふっ飛ぶ乙女ダイヤモンド。

(魔力を使わないモード・チェンジは、あとは…フラッシュモードか)

能力を確認すると、気を溜めた。

(いける!)

そう確信した。

ガッツポーズを取った俺の鼻先を、飛んできた包丁が通り過ぎた。

「ゲッ!」

いつのまにか無数の包丁が、俺を囲んでいた。

(モード・チェンジ)

と言う前に、どこからか飛んできた弾丸が、包丁をすべて撃ち落とした。

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