天空のエトランゼ〜レクイエム編〜(前編)
合気道の達人も、走っている新幹線を投げ飛ばすことができないように…九鬼は、乙女ダークの攻撃を受け流すことができなかった。

だから、逃げ惑うしかないのだが…スピードも、乙女ダークが上だった。

(遊ばれている)

とわかっていても、どうすることもできなかった。

乙女ダークという鳥籠の中にいる九鬼は、その中でもがくだけだった。

だんだんと避けるだけで、九鬼の制服は切れ…皮膚にも綺麗な傷が走っていた。

「フン!私の絶望は、こんなものではなかった」

乙女ダークは動きを止めると、冷や汗を流す九鬼を睨んだ。

「あ、あなたは、一体?」

九鬼は、乙女ダークの攻撃の型を見て、どこか自分に似ていると感じていた。

まるで…道場の同門とやるような。

「お前と話すつもりはない」

乙女ダークは、腰を屈めた。

その様子に、九鬼は必殺技が来ることを確信した。

(仕留めに来る!だけど!)

普段ならば、カウンターで合わせるのだが…明らかに差があった。

(それでも、少しでも…報いることができたら)

九鬼が覚悟を決めて、乙女ダークと同じ体勢をとろうとした時、後ろから声がした。

「わからんな〜。なぜ使わない?その力を」

「!?」

九鬼は目を見開いた。

「一度、封印を解いてやったんだ。だから、お前のやりようで何度でも解けるはずだが?」

真後ろに現れたのは、刈谷であった。

「はあ〜」

乙女ダークの足元に、淀んだムーンエナジーが絡み付く。

「神の力…。使わぬのか?」

刈谷の言葉を背に受けて、九鬼は目を見開いた。

「そうだ。それでいい」

刈谷は笑うと、九鬼に背を向けて歩き出した。

「月影」
「キック!」

乙女ダークと九鬼が同時に叫ぶと、2人はジャンプした。



「フッ」

少しにやけている刈谷の前に、乙女グリーンが着地した。

「知らなかったわ。お前が、そんなにお節介だったなんて」

眼鏡を取ると、リンネに戻った。
< 139 / 295 >

この作品をシェア

pagetop