天空のエトランゼ〜レクイエム編〜(前編)
(何?まったく見えなかった)

九鬼は、いつのまにか自分を追い越していた俺に気付き、振り返った。

シャイニングソードは分離すると、どこかへ飛んでいった。

「な、何とか…やれたな」

ほっと安心した瞬間、いきなり体が重くなり…俺は、足から崩れ落ちた。

(やはり…モード・チェンジの使い過ぎか…。この体でも、これが限界か)

太陽の器と言われているが…普通の人間の女の子の体である。

(でも…それよりも)

崩れ落ちた体よりも、俺は手に握っていた瓶を気にしていた。

(何とか…取り戻せた)

瓶に閉じ込められた月の女神の無事を確かめると、胸を撫で下ろした。

そして、よろけながらも立ち上がると、瓶を開けようとした。

しかし、瓶をあける力がなかった。

「申し訳ないけど…あけてくれるかな?」

俺は、後ろにいる九鬼に声をかけた。

「あっ。はい」

九鬼は慌てて、俺に近付くと瓶を受け取り、蓋を回した。

すると、光が瓶から飛び出し、頭上の月に注がれると、もとの色へと戻った。

その瞬間、グラウンドにいた月影達は勝手に変身が解け、そのまま気を失った。

俺は空を見上げ、月を見つめた。

「理香子!」

解放され、もとの大きさに戻った理香子を、九鬼が抱き締めていた。

ちらっと視線を2人に向けた後、俺はゆっくりと歩き出した。

「待って!あなたは!」

その動きに気付いた九鬼が、呼び止めたけど…俺は足を止めなかった。

ふらつきながらも、校舎内に入ると、あてもなく歩き続けていると突然、目の前がブラックアウトした。


(気を失ったのか?)

冷静に考えていると、俺を包む闇が笑った。

(力の使い方すら知らないお前が、今度はその弱き肉体で、何をする?)

俺は、その声に聞き覚えがあった。

(ライ!)

(フッ)

ライは笑うと、

(この世界を救い…あの世界も救いたいか?)

今度は真後ろから声がした。
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