天空のエトランゼ〜レクイエム編〜(前編)
「…」

ティアは無言で目だけを、ジャックに向けた。

「あんたは自殺したと聞いている。ということは、祖国を内乱状態にした…民主主義国家への復讐かな?前のように、アメリカに対する」

ジャックの探るような言い方に、ティアは視線をレダに戻すと、口を開いた。

「時代は変わったわ。民主主義とか社会主義の対立だけでは、説明をできなくなった。インターネットによって、情報を簡単に得ることができるようになった社会で、アメリカとか国家を壊したところで、世界は変わらない」

「だとしたら、あんたがいる理由は?」

「人にばかり聞いて、あなたの理由は何なの?」

ティアは横目で、軽く睨んだ。

「お、俺か?」

突然震え出すと、ジャックは無意識に煙草に再び手を伸ばし、

「簡単なことさ。死んだやつが願うことは、生きてるやつらの死だ」

唇にねじ込んで初めて手を止めた。

「そう…」

ティアは、ゆっくりと歩き出した。

「あたしの理由は…まだわからないけど…。魂に刻まれたものはわかるわ」

「ほぉ〜」

ジャックは、今度はしまうことなく、火を点けた。

「音楽よ」

ティアはレダを真っ直ぐに見つめながら、彼女に近付いて行く。

「音楽ねえ〜」

ジャックは煙草を吹かすと、ティアの遠ざかる背中を見つめ、

「あまり退屈にはさせないでくれよ。あんたは、俺に貸しがあるんだからな」

ゆっくりと目を細めた後、煙草の煙を吐き出した。

「あんたが、俺を殺すように手配したことは…わかっているんだからな」

しかし、すぐに煙草を簡易灰皿にぬじこむと、ジャックは口元を緩めた。

「あんたが死んでなければ…俺の目的は決まっていたんだけどな」

手だけをテーブルに伸ばすと、ワイングラスを掴んだ。




「ちょっと息苦しくないですか?」

レダに近付くこともできずに、手持ちぶさたになった直樹は、空気が薄いことに気付いた。

大勢の人間が、部屋の中に詰まっているからだろうか。

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