天空のエトランゼ〜レクイエム編〜(前編)
「そうね」

志乃もそう思っていた。

音楽業界の関係者達に、一応挨拶をするという仕事はある程度終わった為に、2人は会場から出ることにした。

ドアを開けて、会場の外に出ると、4人の新たな来客が到着したのを目撃した。

「お嬢様。会場に入る前に、着替えの方を」

入ってきたのは、太陽達だった。



「必要ない」

俺は、学生服のままで中に入るつもりだった。

さっきの戦いで、少し汚れてしまったが、ドレスのような動きにくいものを着る気にはなれなかった。

「お嬢様!」

小柄な男の声を無視すると、俺は真っ直ぐに会場に入るドアを目指した。

車内で少し休んだ為に、歩けるようになっていた。

(血を吸えば…回復するかもしれないが…この体に、牙はないしな)

俺は歩きながらも、体の回復状態を確かめていた。

「お嬢様!」

「仕方ないな」

高坂は頭をかくと、俺の後に続いた。

勿論、サーシャもだ。

ドアから出てきた直樹と志乃は、接近してくる俺から異様な気を感じたからか…道を開けた。

俺は2人に軽く頭を下げると、勢いよくドアを開けて、会場に飛び込んだ。

「うん?」

中に入った瞬間、俺は足を止めた。

なぜならば…誰もいなかったからだ。

いや…正確には、3人だけいた。

「おや。来客だぜ」

煙草をくわえた男が、俺の方を見た。

「そう」

レダの前で、服装の乱れをチェックしている金髪の女は、背中を向けている為に、俺は顔を見れなかった。

「どうした?」

真後ろにいた高坂が、肩越しに会場内を見た。

「まだ始まっていないのか?」

人数が少なすぎると思ったが、テーブルに並んだ取り皿を見て、眉を寄せた。

「え…。誰もいない」

高坂の横から、顔を覗かせた直樹は、絶句した。

「何だ!」

突然、足下に違和感を感じた。

俺は咄嗟に、振り返り叫んだ。

「入るな!」

次の瞬間、足下の床がなくなった。

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