天空のエトランゼ〜レクイエム編〜(前編)
「うう…」

大月学園の体育館とは反対側にあるプールの裏に、用務員室があった。

用務員室といっても、掘っ立て小屋である。

その中にある囲炉裏の側で、寝ていた猫沢は意識を取り戻した。

「こ、ここは!?」

目覚めたばかりで、まだ意識が朦朧としていた。

ただ耳元で聞こえる火鉢の音に、猫沢は段々と思い出してきた。

「剣じい」

猫沢は上半身を上げると、囲炉裏の前で、火の調節をしている白髪の爺を見つけた。

その肩には、拳銃がかけられていた。

「まさか…あなたが」

「違う。お前をここまで運んだのは、私だ」

用務員室のドアが開き、中に入ってきたのは、イベント会場まで太陽達を運んだ小柄な男だった。

「伯父様!?」

目を見開く猫沢に、男は頷くと、囲炉裏のそばに来た。

「しかし、まさか!お前まで影響が出るとはな。予想外だったぞ。お前もそう思うだろう?筧」

剣じいこと…筧剣重郎。学園内で、中身が綾瀬太陽になった開八神茉莉を守るスナイパーである。

「…」

「相変わらず…答えぬか」

そして、小柄な男の名は…上月佐助である。

佐助は溜め息をついた後、猫沢の方を見た。

「巫女よ。お前の気持ちもわかる。しかし、我らが悲願は、開八神家が天下を取ること」

佐助は真っ直ぐに、猫沢の目を見、

「個人的な感情に流されるな」

釘をさした。

「わかっております」

猫沢は立ち上がると、佐助に頭を下げ、

「今回はありがとうございました。屋敷での仕事がある故に…これにて」

その場を去ろうとした。

「待て」

佐助は腰を下ろしながら、あるものを猫沢に投げた。

「これは!?」

猫沢が片手で受け取ったものは、傷だらけの乙女ケースだった。

「俺が、拾っておいた」

「あ、ありがとうございます」

猫沢は頭を下げると、用務員室から出ていった。

その様子を見送りながら、佐助は剣じいに訊いた。


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