天空のエトランゼ〜レクイエム編〜(前編)
「君は一体…」

何者なのか…どうして、俺と体を入れ換えたのか。

と訊きたかったが、答えは恐らくわかっていた。

しかし、その答えは重い。

今の俺には、重い。

なぜならば、その答えに応えるつもりがないからだ。

「太陽様」
「お嬢様!」

潤んだ瞳で、俺を見つめる茉莉の会話を止めたのは、俺ではなく、猫沢だった。

廊下の奥から姿を見せた猫沢は、早足で俺達のそばまで来ると、茉莉の背中に頭を下げた。

「真田様がお探しになっております」

「チッ」

猫沢の言葉に、茉莉は微かに舌打ちした。

そして、その時に見せた茉莉の一瞬の表情に、俺は目を見開いた。

(今のは…)

少女に、似つかわしくない邪悪な気を感じたように思った。

しかし、それはすぐに満面の笑みによってかき消された。

「それでは、太陽様!ごきげんよう」

胸に手を当て、数秒深々と頭を下げると、ゆっくりと頭を上げてもう一度、俺に微笑んでから背を向けた。

そして、頭を下げている猫沢のそばを背筋を伸ばして通り過ぎた。

猫沢は頭を上げる瞬間、俺に一瞥をくれると、茉莉の後に続いた。

その様子を見送りながら、俺は思った。

(少女ぽくないか…。まあ〜俺の体だしな)

男にしては、睫毛が長く…女の子ぽくつくってしまったかなっと、つまらないことを考えてしまった。

(魔力が使えたら、体を取り返すことができたか)

俺はため息をつくと、歩き出そうとして、足を止めた。

(っていうか…体を取り換えるって、どうやってやったんだ!真田は、開八神家の財力と力があったからと、曖昧なことを言っていたが…)

俺は考え込んでしまった。

(脳内の記憶を入れ換えたり、書き変えたというレベルではなく…魂を交換している)

俺は、はっとした。

(これは、科学というよりも、魔法?)

と思ってから、否定した。

(この世界は、魔法よりも科学が発展した世界のはず)

< 187 / 295 >

この作品をシェア

pagetop