天空のエトランゼ〜レクイエム編〜(前編)
だからと言って、全裸になる訳ではない。

(胸だけだ!)

深呼吸をして、両手で形をつくると、いざ参る。

(最低だな)

胸を鷲掴みにしょうとした瞬間、アルテミアの顔を浮かんだ。

俺の全身から力が抜け、膝から崩れ落ちた。

「だって〜俺さ…」

ふさぎ込む俺の耳に、誰かが近付いてくる足音が飛び込んで来た。

慌てて、さっと立ち上がると、身なりを整えた。

そして、平然と歩き出した俺の目に、近付いてくる男の姿が飛び込んで来た。

そのまま、何食わぬ顔で通り過ぎるつもりだった。

俺と男は、数十秒後…すれ違った。

「…あんたさあ〜」

男は突然足を止めると、振り返った。

「!」

俺はびくっとした。

(見られていた!)

女子高生が自らの胸を揉もうとして、崩れ落ちるシチュエーションなどあり得ない。

しかし、あり得ないからこそ…声をかけるやつもいないだろうと思っていた。

無言で振り返った俺に、男は言った。

「あんた…料理人かい?」

「い、いえ」

予想外の質問に、俺は焦りながらも返事をした。

「血の匂いがするんだよ」

男は、俺の目を見つめ、

「人の血の匂いが」

目を細めた。

「人の血の匂い?」

その言葉に、俺の焦りは消えた。

いや、男の言葉と言うよりも、俺を見る目の色が、危険だったからだ。

自分の目を見返す俺の眼光に、男は笑った。

「あんた!人を殺したことがあるだろ?その目!ただ者じゃない」

「俺は、人を殺したことがない!」

「俺?」

女子高生の言い方に、男は笑うと、

「ククク…。いいよ。あんた!素質はある」

はいているズボンのポケットから、名刺を取り出した。

「もし!死体の処理に困ったら、連絡をくれ!ちゃんと始末するからさ。勿論、無償で」

そして、名刺を俺に向かって投げた。

「何」

名刺を受け取った俺は、そこに書かれてある文字に目をやった。

名前と携帯番号しか載っていない。

「藤崎聖人」

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