天空のエトランゼ〜レクイエム編〜(前編)
「じゃね!素敵なお嬢ちゃん」

藤崎は、俺に背を向けると、手を振った。

「あと、自分の胸くらい揉んだらどうだい」

「え」

藤崎の最後の言葉に、料理人の意味を問いただそうとした俺は凍りつき…動けなくなってしまった。

その為…見す見す、藤崎を取り逃がしてしまった。



「アンコールまで、少しだけ時間を下さい」

鳴り響く歓声をバックに、ステージから通路に出たレダとティアは、スタッフ達の間をぬいながら、楽屋に向かっていた。

「3分後に、アンコール!」

スタッフの声が、通路にこだました。



「え」

動けるようになった俺の耳に、そのスタッフの声が飛び込んで来た。

タイミングを失い、藤崎を追いかけることをあきらめた俺は、振り返った。

すると、さっきは気付かなかったが、もう…楽屋のそばまで来ていたようだ。

スタッフに、扉を開けて貰い、中に入ろうとするレダの顔が、俺の目に映った。

「な」

俺は絶句した。

頭の中が、フラッシュバックして…ある状況が浮かんだ。

俺の前に立つ…相手。

(クッ!)

俺は顔をしかめながら、ゆっくりと銃口を相手に向けた。

(どう見ても…人間じゃないか!)

躊躇う俺の頭に、女の声がこだまする。

(そう思う…あなたは、優しいのね)

(うおおっ!)

殺気を向けないようにしながら、俺は引き金を弾いた。

「ジュリアンさん…」

思わず出た言葉に、レダは俺を見た。

驚いた顔をするレダ。

「また会ったわね…お嬢さん」

レダの後に続くティアは、俺を見て、微笑んだ。

「あ、あんたは!」

ティアを見た瞬間、呪縛が解けたように動けるようになった。

近付こうとした俺をスタッフが、止めた。

「すいません!まだコンサート中ですので」

蹴散らすこともできたけど、混乱を招くだけだ。

何とか振り切って前に行こうとする俺を、数人のスタッフが必死で止めた。

「ウフフフ…」

楽屋に入って数秒で、レダが出てきた。

レダは無言でこちらを見ないが、ティアは俺の状況を見て、笑った。

「レダ!」

俺は叫ぶしかなかった。
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