天空のエトランゼ〜レクイエム編〜(前編)
観客の声がする方へ歩き出したレダは、前を真っ直ぐに見つめながら、ティアに訊いた。

「彼女は誰です?私をジュリアを呼んだ」

「さあ〜。あたしも詳しくは知らないのよ」

はぐらかすティアの言葉に、

「そうですか…」

レダは頷くと、通路からステージ裏へと入った。

「行きます!」

すでに袖で準備していたバンドのメンバーに告げると、レダは颯爽と観客の前に飛び込んだ。

歓声が沸いた。

レダに、観客の目が行っている間に、バンドメンバーは各楽器の前に陣取った。

ドラムのカウントが始まり、演奏が始まった。

「これが…本物のレダの歌!?」

何とかスタッフを振り払い、ステージに上がる階段まで来た俺は、レダの歌声に目を見開いた。

「…」

そんな俺に気付き、ティアは上から見下ろした。

「凄い」

感嘆した俺の一瞬の隙をつき、闇が視界を奪った。

「ま、またか!」

歓声も消えた。

俺の周囲は、何もない闇に包まれていた。

「こんな技!」

躊躇なく、魔力を発動させた俺は、闇を破壊した。

空間に亀裂が走り、割れると同時に、魔力を消した。

「レダ!」

階段を上がろうとしたが、階段がなかった。

いや、通路もない。

同じような闇に包まれていたが、亜空間でもなかった。

周囲を光輝く夜の闇に囲まれた…別の場所に、俺はいた。

「海か!」

光輝く闇は、月明かりを反射する海面であることに気付いた。

「無理矢理、テレポートさせられたのか!」

足下にごつごつした岩が転がっているようだが、島という程広くはなかった。

「お嬢ちゃん…」

後ろから、声がした。

「!」

俺が振り返ると、数メートル先の海面から、人間が顔を出した。

いや、相手は人間ではなかった。

ゆっくりと海の中を歩き、陸地に上がってきた男の身長は、5メートル程あり…全身が鱗で被われていた。

「ようこそ、我が島へ。ここに来たということは、光栄です。なぜならば、あなたも島の一部になれるからです」
< 198 / 295 >

この作品をシェア

pagetop