天空のエトランゼ〜レクイエム編〜(前編)
「うん?」

光一は眉を寄せた。

空中に舞い上がった九鬼は、1人ではなかった。

無数の九鬼が、空に浮かんでいた。

「月影!」

そして、乙女ブラックの体が、光輝いていく。

「流星キック!」

無数の乙女シルバーが、光一に向かって落下する。

「馬鹿な!」

光一が火の玉を放つ前に、乙女シルバー達の蹴りが炸裂した。

「…」

無言で、屋上に着地した乙女シルバー。

「チッ」

飛び出そうとして動きを止めたサーシャは再び、扉の向こうに身を隠した。

「化け物か」

再び観察することにした。

「ククク…」

含み笑いが聞こえた為に、乙女シルバーは振り返った。

「無駄だよ」

しかし、声は後ろからした。

慌てて振り向こうとした乙女シルバーの腹に、至近距離から光一の火の玉が炸裂した。

ふっ飛びながら乙女シルバーの戦闘服は粉々になり…九鬼は床を転がった。

もう気を失っていた。

「貰うぞ。その体」

ゆっくりと、九鬼に近付こうとした光一の動きが止まった。

「な」

突然、全身に信じられない程の負荷がかかり、動けなくなったのだ。

「しっかりしろ!」

いっつのまにか出入口から飛び出したサーシャは、九鬼を背負っていた。

「き、貴様は!?」

光一は、エメラルドグリーンに輝くサーシャを見つめ、

「普通の人間じゃないな」

歯軋りした。

「サイレントボム!」

サーシャは光一に叫ぶと、一気に走り出した。

「逃がすか!」

光一の周りが、真空状態になり…そのまま、体が膨らんで爆発するはずだった。

「なめるな!」

光一の目が輝くと、サーシャの技は消えた。

「今の女!あいつも、ただの人間ではないな」

サーシャは、次々に階段を飛び降りた。

驚く生徒達を無視して、とにかく逃げることを優先した。

(追って来られたら、アウトだ)

サーシャは、光一が本気を出せば、逃げ切れるとは思っていなかった。

しかし、賭けた。

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