天空のエトランゼ〜レクイエム編〜(前編)
「…」

アルテミアの拳が、麗菜に迫る。

「は!」

麗菜は、気合いを発した。

「!?」

次の瞬間、光が…アルテミアの突きだした右腕を中心として、走った。

(やった!)

勢い余って、麗菜の横を通り過ぎるアルテミア。

「ふぅ〜」

麗菜の手には、日本刀に似た刀が握られていた。

次元刀。

時空間さえも斬り裂く…その刀の性質で、麗菜はアルテミアの腕を斬り落としたと確信した。

少し心が痛んだが、アルテミア本人ではないと言い聞かせ、麗菜は振り向き様の斬撃を放った。

光の半月が、刀から飛び出し、アルテミアの括れたウエストを通り過ぎた。

右腕が廊下に落ち、胴体から真っ二つになるはずだった。

しかし、赤い血の線が皮膚に一瞬走っただけで、アルテミアの体には傷一つ残らなかった。

「え」

驚く麗菜の目の前で、振り返ったアルテミアの瞳が赤く輝き、唇の両端から牙が覗かれた。

「バンパイア…」

アルテミアの瞳を見た瞬間、麗菜は体の自由を失った。

握っていた次元刀が、床に落ちた。

「フッ」

アルテミアは一瞬で麗菜の前まで来ると、首筋に噛みついた。

「!?」

しかし、すぐに違和感を感じると、首筋に突き刺した牙を抜いた。

2つの傷口から、流れる砂。

アルテミアは顔をしかめ、口に入った砂を吐き出す為に下を向いた。

その時、アルテミアの脳天に銃口が突き付けられた。

引き金が引かれ、至近距離から、光の弾が直撃した。

その反動で、2人は吹っ飛んだ。

「化け物め」

麗菜が意識を失ったことになり、強引に体を変えた美奈子は恐怖を緩和する為に、笑って見せた。

そして、再び引き金を弾こうと銃口を向けたが…アルテミアはいなかった。

いつのまにか、後ろに移動したアルテミアの回し蹴りが、美奈子の脇腹にヒットした。

次の瞬間、美奈子は廊下の窓ガラスを突き破り、四階から落下した。

アルテミアもその窓から飛び降りると、地面に激突した美奈子の背中に爪先を突き立てた。

「う!」

砂でできている肉体とはいえ、痛みは感じるようにできていた。
< 215 / 295 >

この作品をシェア

pagetop