天空のエトランゼ〜レクイエム編〜(前編)
「必ず救う!」

屋上で、誓いを新たにしている俺の耳に、微かな歌声が飛び込んできた。

「?」

振り返ると、誰もいないが、出入口の後ろから声が聞こえてきた。

俺は恐る恐る近づき、覗いて見た。

目を瞑り、真剣な表情で歌う少女がいた。

(この子は?)

名前を思いだそうとしていたら突然、少女は目を開けた。

「え!あっ〜え…きゃあ!」

口ごもった後、少女は悲鳴を上げながら、俺の横を通り過ぎた。

どうやら…先程のアルテミア達の襲撃の時もずっと、歌っていたようだ。

(周りの音が、聞こえなくなる程の集中力か)

俺は少し、感心してしまった。


しかし、当の本人は…顔から、火が噴き出しそうになる程、恥ずかしさで真っ赤になっていた。

少女の名は、香坂姫百合。

校内放送を流した後、校舎を出ることは危険と判断した彼女は、屋上から下の様子を伺いに来たのだ。

しかし、それが裏目に出た。

麒麟と化した中島の雷撃を、まともに見た姫百合は、屋上の階段裏に隠れ、恐怖を拭う為に、小さな声で歌を歌っていたのだ。

その集中力で、恐怖を消すことはできたが、戦いの終息を感じることができなかったのだ。

「な、なんたる失態!」

真っ赤になりながら、階段を駆け下りると、二階フロアの左側の廊下から香坂真琴が、姿を見せた。

「姫!一体、何が起こっているんだ?」

相変わらず、出遅れる姉の質問に、 姫百合はこたえることなく、さらに下に下りていった。

「姫!姫百合!」

姉の言葉では止まらない。

一階についた時、中庭から廊下に入ってきた九鬼の姿が、姫百合の目に飛び込んできた。

「生徒会長!」

姫百合の叫びに、疲れ果てていた九鬼は、笑顔を向けた。

「無事でしたか?」

「会長!」

姫百合は、九鬼の胸に飛び込んだ。

九鬼は、姫百合を抱き締めると、

「何とか…終わりました。帰りましょう」

微笑み、帰宅を促した。

「はい」

姫百合は、そんな九鬼の言葉にただ頷いた。
< 228 / 295 >

この作品をシェア

pagetop