天空のエトランゼ〜レクイエム編〜(前編)
「女神テラであった赤星綾子は、この世界を魔獣因子を持つ人間だけのものにしょうとしました。しかし、人間の数が多すぎます。一気に処理するならば、異世界に落とせばいいだけです」

「あなたは、人間が憎いのかい?」

光一は、男を見下ろした。

「この世界の人間が、憎いのです!少し違ったくらいで、差別する低能な!この世界の人間が!」

そう言った男の眼窩の底が、もぞもぞっと動いた。

「そうだね」

光一は、足を組み、

「君の思いは、理解しているよ。何故なら…」

口許を緩め、

「僕は、君達によって生み出されたからね。この世界を壊す為にね」

そのあと、にやりと笑った。

「か、神よ!無知で無能なこの世界の人間達に、絶望を与えて下さい!何とぞ!」

男の祈りに似た願いに、光一は頷いた。

「君の願いは、必ず叶うよ」

「ありがとうございます」

男は、額が床につくほど頭を下げた。




「よお」

その頃、部屋を出たティアが歩いていると、廊下の壁にもたれていたジャックが声をかけてきた。

「じじいは、元気だったかい?」

「…」

ティアは、足を止めた。

「それにしても、化け物の癖にな。よくこんな屋敷を建てられたものだな?」

ジャックは、廊下の先に目をやった。

この屋敷の持ち主の名は、菱山五郎。

戦前から、今の姿でいる化け物であった。

自らの力だけで、魔獣因子に目覚めた彼は、戦後の混乱期に頭角を示し、財を増やしたのだ。

その人間離れした力を使って。

だが、頭角をあらわしていく彼の正体を知った部下に、寝込みを襲われて、目玉を潰されたのだ。

勿論、その部下は殺されたが…その出来事があってから、滅多に人前には出なくなり、裏で財を蓄えていったのだ。


「くくく…。まあ〜いい金づるだがな」

ジャックは、楽しそうに笑った。

「…そうね」

ティアはそれだけ言うと、ジャックの前を通り過ぎた。

「………フッ」

ジャックは、横目で遠ざかっていくティアの背中を見送った。
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