天空のエトランゼ〜レクイエム編〜(前編)
注意されても、まだ外を見ている俺のそばに来ると、カーテンを閉めた。

「あのお屋敷は、お嬢様の親戚がお住まいになっておられる。しかしな。今は、疎遠になっている」

「疎遠?」

カーテンを閉めるとすぐに、俺から離れた猫沢の動きを目で追った。

「…」

猫沢は答えない。

「何かあったのか?」

俺は再び、カーテンを開けようとした。

すると、素早い動きで、猫沢がそれを止めた。

再びそばに来た猫沢の目を、俺は見つめた。

「クッ!」

お嬢様の体でいる俺の瞳は、開八神茉莉のものである。

声もまた…。

猫沢は顔をしかめると、目を瞑り、顔をそらした。

そして、数秒後…猫沢は話し出した。

「お嬢様が生まれたからだ」

猫沢は俺から離れると、背を向けて歩き出した。

「このことは、お嬢様にも言ったことはない。だが…あの方のことだ。薄々勘づかれていらっしゃることだろうがな」

猫沢は扉の前で足を止めると、

「だから、そのカーテンは開けるな!」

最後に念押ししてから、部屋を出た。

俺はしばらく、閉まった扉を見つめた後、再びカーテンに目をやった。

「?」

いつのまにか、明かりが消えていた。

(何だったんだ?今のは)

ほんの数分間だけ、ついた明かり。

俺には、何を祝福していたかのように思えた。

(闇の祝福?)





「フッ」

その頃、男の部屋を出た赤星光一は、ティアとは逆の方向に歩いていた。

「初めまして、そっくりさん」

「!?」

突然、真横から声をかけられて、光一は足を止めた。

そして、目だけを向けると、

「客人か」

「ウフフフ」

廊下の壁にもたれていたのは、リンネだった。

「何か用かな?」

光一はゆっくりと、体を向けると、顎を上げ、見下ろすようにリンネを見た。

リンネはそんな光一に、微笑んだ。

「何がおかしい?」

リンネの無意味な笑みが、光一の癇に障った。

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