天空のエトランゼ〜レクイエム編〜(前編)
祖父母が、姫百合の母親を生んだのは、四十歳手前だとは、聞いていた。

「だから、あたしによく言っていたわ。お前には、兄がいるとね」

母親は、真琴達のテーブルにお茶を運んでいく。

「確か名前は…クラーク」

「クラーク…」

姫百合は、見たことのない叔父の名前を口にした。

「うん?」

湯飲みを2人の前に置いた後、母親は首を捻った。

「そう言えば…前の旦那さんと結婚する前に、婚約者がいたと…え?籍は入れていたのかしらね?そこまでは、覚えていないわ」

母親の旧姓は、本田であった。

その本田の名は、父親方の名前ではなかった。

「へぇ〜」

母親の話に、真琴が感心した。

「でも、どうしてこんなことを訊くの?」

リビングに来ない姫百合の前に、母親は湯飲みを持って戻ってきた。

「べ、別に!」

姫百合は椅子に座ると、キッチンでお茶を飲むことにした。

「複雑だねえ。いつ聞いても」

父親は煙草を灰皿に置くと、湯飲みに手を伸ばした。

「あたしができてからは、落ち着いたと言っていたわ。その行方不明になった兄が、きっと…自分の願いを叶えてくれていると」

「願い?」

父親は眉を寄せた。

「それだけは、教えてくれなかったのよ」

母親は、ため息をついた。

「…」

姫百合は無言で、お茶を飲み干すと、椅子から立ち上がった。

「ご馳走様」

そして、慌てて二階へと階段を上った。

「風呂入れよ…ヒクシュン!」

再び新聞を広げた真琴は、くしゃみをした。

「あんたは、何か着なさい。湯冷めするわよ」

父親の隣に座った母親は、真琴に向かって言った。





その頃、部屋に入った姫百合は、着ていたTシャツを脱ぐと、鏡に背中を向けた。

「やっぱり…遺伝じゃないんだ」

うっすらとだが、金色の産毛が生えていたのだ。

それから、前を向き…小さな胸に手を当てた後、姫百合は目を瞑った。

「やっぱり…剃ろう」

ゆっくりを背中を鏡に向けると、金色の産毛を剃ることに決めた。

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