天空のエトランゼ〜レクイエム編〜(前編)
「人を呼んでおいて〜物(ぶつ)はないわ。今度は、命を狙うかね?」

いつのまにか、男の腕が二本増えていた。

「俺は、お前らが嫌いなんだよ。食事はかぶるし…」

藤崎はため息をつくと、コートの中に手を入れた。

「不味くて、喰えないし」

そして、手を出した時には…デザートイーグルが握られていた。

「じゃなあ」

藤崎は躊躇うことなく、引き金を弾いた。


「…やれ、やれ」

何回か引き金を弾いた後、硝煙の匂いに、藤崎は顔をしかめた。

「折角のいい匂いが、台無しだ」

肉片に変わった男に、一瞥をくれると、藤崎は部屋から出た。

「まだ変幻の途中でよかったよ。あいつら…銃で死なないやつもいるからな」

マンションから出た藤崎の携帯が、また着信を告げた。

「やれやれ…。今度は、普通の人間にしてくれよ。こちとら、主食をしばらく食べていないんだからさ」

コートから携帯を取り出すと、耳に当てた藤崎は、にんまりと笑った。

「君か!連絡を待っていたよ」





「マスター」

喫茶店のカウンター内で、コーヒーを入れていたマスターの前に、1人の男が駆け込んで来た。

そして、小声で連絡事項を伝え、すぐに店の外に出た。

「そうですか…。何とか処理できましたか」

マスターへの報告内容は、藤崎が殺した男の処理についてであった。

血の匂いをかぎ分けることに長けた者達が、日夜警戒に走り回っているのだ。

「目覚めた者の中には、すぐに悪意や憎しみにかられ、すぐに相手を殺す場合が多いです。そして、その衝動は、憎しみから食欲に変わります。人を口にしてしまったものは、正気に戻った時、知ります。自分が人間ではなくなったと…。しかし…」

マスターは入れ終わったコーヒーを、カウンターから出て、テーブル席に運ぶ。

「その者は、再び…人間世界には戻れない」

カップルの前に、コーヒーを置くと、マスターはカウンター内に戻っていく。

「我々は、人間と生きることを決めた。初期衝動で殺し、食べたとしても…心のケアによって、心だけは人に戻ることもある」



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