天空のエトランゼ〜レクイエム編〜(前編)
「何!?」

絶句した後、思わず自分の体の匂いを確認しょうとする俺に、藤崎は軽く肩をすくめて見せた。

「何をしてるんだい?二、三人を殺したら、殺人だけど…万を越えたら、英雄になれる。君の匂いは、神にも等しい。自慢すればいいのに」

「お、俺が!何万人も殺しただと!?」

藤崎の言葉に、思わず素の喋り方になってしまった。

「そうさ。間違いない」

藤崎は突然、コートの中からデザートイーグルを取り出した。

「思い出せばいい」

そして、俺の額に向けて、引き金を弾いた。

「神よ」

「!?」

藤崎の動きはゆっくりであり、簡単に避けることができたはずであった。

しかし、何故か俺は…避けることができなかった。

(体が動かない!?)

銃弾は意図的であろうが、貫通することはなかったが、俺の額の端を少し抉った。

銃器の中でも、圧倒的な威力を誇るデザートイーグルでの繊細な射撃は、驚くことに、額の端から真っ赤な血を流すだけに終わった。

そして、その血が、俺の顔を流れた時…変化が起こった。

ドクン。

心臓が、大きく動いた。

(な)

俺は、心の中で驚いた。

全身の毛が、逆立つ。

(この…感覚は!?)

俺の手が、無意識に額から流れる血を拭った。

(この衝動は!?)

そして、指についた血をぺろっと舐めた時…俺は、確信した。

(バンパイア!)

口元が綻び…瞳が、血よりも赤く染まった。

「いい感じだ!」

藤崎は、歓喜の声を上げた。

(魔力!?)

俺の体…いや、茉莉の体が変わった。

(俺の魔力ではない!か、彼女の魔力!?)

迸る力が、一気に…神レベルに上がった。

「いいよ。いいよ!」

藤崎は、興奮していた。

しかし、その喜びは、すぐには続かなかった。

「え…」

牙を生やし、バンパイアへと進化した茉莉の瞳が、自分を射抜いていたからだ。

「く!」

瞳の呪縛に捕われる前に、藤崎は目をそらすと、デザートイーグルを草むらに向けた。
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