天空のエトランゼ〜レクイエム編〜(前編)
「な、何とかな」

俺は拳を握り締めると、やり場のない怒りに震えた。

「しかし!間に合わなかった。あそこにいたすべての人間が殺されるまで、俺は何もできなかった」

「上等だ。本当は、その先にいる難民も、殺していいと許可を貰っていたのだがな」

真田はやはり、煙草を吸うことにした。

「許可だと?」

俺は、眉を寄せた。

「そうだ。貴様が行ったキャンプの周囲は、難民で溢れかえっている。ボランティアではまかないきれない程な。財政も圧迫し、さらに数も増え続けている。だから、提供されたのさ。神の貢ぎものとしてな」

「神だと!」

「貴様も知ったはずだ。お嬢様の正体をな。彼女は、この世界の根本を支える神」

「テラか!」

思わず出た俺の言葉に、真田は苦笑した。

「テラ?フン。ああっ…あの女神のことか。やつらと一緒にするな」

真田は煙草を喰わえると、火をつけ、

「貴様にわかり易く言うとだ。テラは、総理大臣のようなもの。いなくなれば、新しいテラが生まれる。しかし、お嬢様は違う。人間でいう天皇のような存在。この世界を造った月の女神の血筋として」
「馬鹿な!月の女神は、いるだろうが!」

俺の言葉に、真田は煙草を吹かすと、少しだけ距離を詰め、

「お前は、どこまで知っている」

170近くある茉莉の体を見下ろした。

「このお嬢様が、バンパイアってことまでだ!」

俺は顔を上げ、真田を睨み返した。

「フン」

真田は鼻を鳴らすと、少し俺から離れ、

「人として生きることを決めた月の女神に、力はない。殆どの力は、お嬢様に受け継がれている。さらに、お嬢様は今までの方々とは違う特別の存在」

「太陽のバンパイアか…」

俺の呟きに、真田の指から煙草が落ちた。

「き、貴様!なぜ、その言葉を!」

いつもどこか冷静な真田の手が、震えていた。

「真田様」

今まで控えていた猫沢が、かけよろうとした。

しかし、佐助が肩を持って止めた。

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