天空のエトランゼ〜レクイエム編〜(前編)
「どうしてだ!」

さらに問い詰めようとする俺の前に、3人が立ち塞がった。

「帰りましょう。お嬢様」

佐助は、温和な笑顔を浮かべた。

「う!」

再び…茶番劇が始まったのだ。





「ほんと…勘弁してくれよ」

山道を駆け下りた藤崎は、茉莉の気を感じなくなって、やっと足を止めた。

「腹が減って、力がでない時に…」

何とか国道まで出た藤崎の目に、バス停が映った。

ちょうど人が降りてくるところだった。

思わず、銃口を向けたくなった。

「いかん、いかん…。俺は、料理人ではないんだから」

しかし、首を横に振り、衝動から耐えて見せた。

降りてきたお客の1人が、道を挟んで立つ藤崎の片目の窪みから、血が流れていることに気付き、軽く悲鳴を上げた。

「ったくよ」

藤崎は慌てて、ハンカチで左目を隠した。

じろじろとこちらを見る人々に、顔をしかめ、

「食材になる前は、どうしてあんなに不味そうなんだ」

唇を噛んだ。

若い女が、自分を見つめ、何とも言えない顔をした時、藤崎の手は自然とコートの中に伸びた。

(殺してやろうか)

それは、殺意であった。

「何をしょうとしているんだ?」

突然、右隣から声がして、藤崎は目を見開いたまま、動きを止めた。

そして、にやりと笑った。

「旦那!」

隣に立っているのは、幾多流であった。

「…」

幾多は、藤崎には目をやらずに、バス停から離れていく人々の背中を見送っていた。

「よかった〜!旦那、聞いて下さいよお。あの女!怪我してる俺を、気持ち悪そうに見やがったんですよ!人間として間違っているでしょ!」

「そうだな」

最後尾にいる女は、ちらっとこちらを見て、顔をしかめた。

バス停の下に、民家が密集していた。人々は、そこに帰るのだろう。

「だんな〜あ!」

妙に甘えたような声を出す藤崎。

怪我と空腹で、少しおかしくなっているのだろう。

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