天空のエトランゼ〜レクイエム編〜(前編)
「…」

開八神茉莉の肉体が暴走した次の日、大月学園の屋上に、赤星光一がいた。

1人になると、能面のように無表情になってしまう。

屋上の扉の影で、そんな光一の様子を見張っている者がいた。

「フッ」

光一は笑うと、振り返ることなく、言葉を発した。

「出てきたらどうです?」

その言葉に、屋上から姿を見せたのは、麗菜であった。

「一応、妹になるのですから、ききたいことがあるなら、遠慮なく訊いたらいい」

「よく、そんな口を」

麗菜は、光一の背中を睨んだ。

「先日、あなたがやったことは!」

「それでも、家では兄妹を演じていたじゃないですか」

光一はゆっくりと振り返り、

「沢村先輩」

麗菜の顔を見た。

「え…」

麗菜は、驚きの声を上げた。

「…」

光一は、そんな麗菜からゆっくりと視線を元に戻した。

「あ、あなたは?」

思わず、麗菜の足が一歩前に出た。

「フッ」

光一は、屋上から見える世界に目を細め、ゆっくりと話を続けた。

「かつて…この世界から、ブルーワールドに5人の人間が、召喚された。あなたを入れれば…6人かな?」

光一は、ちらりと後ろを見、

「その中の1人は、己が選ばれた神の体を得たものと思い…人間も魔物も支配し、安定した世界をつくろうとした。しかし、結果は…」

光一は顔を見上げ、

「その者は、神の体を得てはいなかった!しかし!」

唇を噛み締め、

「やりようによっては、人の頂点には立てたはずだった!」

怒りを露にした。

「く!」

その怒りは、己に向けられていた。

「…」

何も言えなくなってしまった麗菜に気付き、光一は怒りを抑えた。

「…あなたと私は似ている」

光一は、体を麗菜に向けた。

「え」

麗菜は、目を見開いた。

光一は悲しげに笑い、

「真実の姿を晒していない」

じっと数秒だけ麗菜を見つめた後、歩き出した。


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