天空のエトランゼ〜レクイエム編〜(前編)
「馬鹿な子」

和恵が去った後、どこからかティアが現れた。

足下に溜まった土を見下ろし、

「あたし達は、彼らに体を与えられて存在している。彼らの命に背く行為をすれば…肉体は、砂に戻る」

ゆっくり屈むと、少しずつ風に飛ばされていく砂の塊に手を伸ばした。

「おい」

しかし、後ろからかけられた声に、ティアは途中で手を止めた。

「まさか〜ここで、終わる気じゃないだろうな?」

「フッ」

ティアは手を引っ込めると、ゆっくりと立ち上がった。

「まさか」

そして、後ろに立つジャクに微笑みかけた。

「ケッ」

その微笑みを見て、ジャクは唾を吐いた。

「もうですよ。終わる訳がありません」

ジャクの後ろから、闇を纏っているかのような陰気な気を放つ男が、姿を見せた。

「ヤーン!」

ティアは、その男を見て、顔をしかめた。

ヤーンと呼ばれた男は、深々と頭を下げると、

「第一段階に必要な魂の生け贄は、集まりました。それを使い、大月学園一帯の人々を、ブルーワールドに落とします。元々、ここの大月学園は、向こうと繋がっています。ここに、穴を開けることで、一気に広がるでしょう」

笑いながら、頭を上げた。

「コンサート会場に来た人間を、ちまちま落としていくという計画は、必要なくなったしな」

ジャクは煙草を取りだし、口にくわえると、砂の塊を見下ろし、

「まあ〜用なしだったな」

煙を吐き出した。

「しかし、問題ができた」

ヤーンは、ティアに目をやり、

「例のお嬢様が知ってしまった」

じっと見つめた。

「問題は、ないはず。彼女の取り巻きは」
「菱山様が、お許しにならない」

ティアの言葉を、ヤーンは遮った。

ティアはため息をついた後、
「でしたら…あたしが、何とかします」

大月学園に向かおうとした。

「無理ですよ」

ヤーンはティアを止め、にやりと口許を歪めた。

「彼女の力は、強大です。止めれるとすれば、彼しかいませんよ」

しかし、ティアを見る目だけは笑っていなかった。
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