天空のエトランゼ〜レクイエム編〜(前編)
「忘れられぬならば…無となり、消えよう。そして、もし…生まれ変わったならば…あの人と同じ女で…」

体は風に流され、言葉も発せられなくなってきた。

「せめて…友達」

それが、西園寺俊弘としての最後の言葉となった。

「なれるわ」

和美は頷いた後、歌を歌い始めた。

西園寺の為のレクイエムを。


彼は、成仏した。

苦しみと切なさから、自らを救う為に…。

これもまた、魂の在り方であろう。

砂が舞う世界で、和美の歌が響き続けた。







「ここか」

数万人の魂の波動を感じ、俺はある扉の前にいた。

少し深呼吸をした後、後ろを見た。

これほどの巨大な屋敷なのに、追っ手が来ない。

(光一の気は?)

自分の能力ではなく、茉莉の力を使っている為に、大雑把になっていた。

数万人の塊がある為か…細かい索敵ができないのだ。

(仕方がない。まずは、こちらを片付けよう)

俺は、仰々しい木造の扉を軽くノックしてから、中に入った。

(闇?)

それは、魔王の居城内で、玉座の間に入った時と感覚が似ていた。

しかし、決定的な違いはあった。

「何者じゃ?」

部屋の中心から、声がした。

俺の目が赤くなると、部屋の真ん中で椅子に座る男の姿をとらえた。

ライのような圧倒的な恐怖は、感じれなかった。

しかし、それでも、普通の人間とは感じなかった。

(魔獣因子)

すぐに、浮かんだ言葉で、俺はすべてを理解した。

「…」

ゆっくりと歩き出した俺の足音を聞き、男は椅子から身を乗り出した。

「この匂いは!茉莉か!どうして、ここに!」

男は思い切り、歯ぎしりをしたが…すぐに、顔をしかめた。

「違う!匂いはそうだが…魂が違う!」

男の叫びに、俺は足を止めた。

近付いて気付いたが、男のくぼんだ眼窩に、目玉はなかった。

「貴様は、何者だ!」

興奮から、思わず立ち上がった男の背中に、戦慄が走った。


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