天空のエトランゼ〜レクイエム編〜(前編)
「!」

アルテミアの一言は、茉莉の心に突き刺さった。

「き、き、貴様!」

茉莉の羽が、左右に広がった。

「フッ」

アルテミアは、にやりと笑った。

実際…茉莉は恋をしていただろう。

しかし、茉莉は恋を知らな過ぎた。

アルテミアの挑発に怒りながらも、太陽を失ったことに対する怒りがわいていないことに、自ら気付いていた。

勿論…それは、錯覚である。

アルテミアの言葉に、翻弄されているのだ。

すぐに、来ない痛みこそ…真の痛みである。

この戦いが終わった…数時間後ならば、茉莉も気付いたかもしれなかった。

「死ね!」

すべての魔力を解放した茉莉が、アルテミアに襲いかかる。

アルテミアは、一歩も動かない。

ただ目だけを、茉莉に向けて言った。

「2人だけの世界?笑わせるな!」

「キイィ!」

甲高い声を上げると、茉莉の両手の爪が伸び、アルテミアを切り裂こうとした。

「2人だけで生きていける程…世界は甘くない」

アルテミアは右手を伸ばすと、飛びかかってきた茉莉の顎を掴んだ。

「!」

空中で身動きできなくなった茉莉が見たものは、赤く光ったアルテミアの瞳だった。

にやりと笑ったアルテミアの口許から牙が覗かれた。

「お前の力…貰うぞ」

「イ、ヤ…」

顎を捕まれている為に、茉莉はちゃんと話せなかった。もがこうとしても、まったく動けなかった。

背中から生えた羽は、消滅し…爪は落ち、瞳の色も戻っていく。

「殺すことは、簡単だが…」

数秒後、アルテミアは茉莉を床に捨てた。

「本当の愛を知ってからにやる」

「あ、あああ…」

茉莉は起き上がると、魔力を失った己の手を見て、わなわなと震えていた。

何とか魔力を発動させようとするが、まったくできない事実に気付くと、発狂したかのように、絶叫した。

「いやあああっ!」

「フン」

アルテミアは、茉莉を無視するかのように、背を向けた。

「いくぞ…赤星」

「うん…」

アルテミアの左手に、指輪がはめられていた。

そして、ピアスから俺の声がした。
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