天空のエトランゼ〜レクイエム編〜(前編)
「歌!?」

街中を歩いていた飯田直樹は、ふと足を止めた。

雑踏の中で、スピーカーから流れるような機械的な音ではなかった。

耳元で囁かれるような…生歌。

デジタルで、データ化した音楽ではない。

温かいアナログの音だ。

「…」

周囲を見回しても、そんな音を出しているようなバンドもいない。

(いや…この柔らかで軽やかな歌は…日本人にはほとんどいない)

音楽関係の会社で働いている直樹は、直感でその素晴らしさに気付いていた。

再び音を探す為に、耳を澄ませていると、携帯の機械的な音が飛び込んで来た。

軽く顔をしかめてから、直樹は上着のポケットに入れていた携帯を取り出した。

「もしもし…」




「あっ!ナオくん。ちょっと遅くなりそうだから、会社には戻らないからね」

直樹に電話をかけて来た女は、バーにいた。

「じゃあ〜ねえ!バイバイ」

携帯を切った女の前に座っていた友達は、ため息をついた。

「相変わらず…仲がいいのね。一緒に仕事してるんだから、結婚したらいいのに」

その言葉に、携帯を鞄にしまいながら、女はにっと笑った。

「あたしらは、里緒菜達とは違うんです。そんなに急ぎませんから」

「そお」

里緒菜は軽く肩をすくめから、ワイングラスに指を伸ばした。

一口飲んでから、

「でも…ナオ…飯田君は、いい男なんだから…。うかうかしてたら、誰かに取られるかもよ」

ちらっと女を見た。

「それは、昔惚れていた女からの忠告ですかな?」

「ゴホ!」

思わず咳き込む里緒菜に、女はにっと笑った。

「そ、そんなんじゃないわ」

ワイングラスをテーブルに置いてから、里緒菜は女を睨んだ。

「そうでしたね」

女は、そっぽを向き、

「今は、イケメンの旦那様がいらっしゃるんですから」

舌を出した。

「ま、まったく…。香里奈に、からかわれるなんて…反省するわ」

里緒菜はワイングラスを手に取り、一気に中身を飲み干すと、お代わりを頼んだ。

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