天空のエトランゼ〜レクイエム編〜(前編)
「でも…里緒菜が和也君と結婚した時は、本当に驚いた。高校を卒業してすぐだったものね」

香里奈は、焼酎のロックを飲みながら、昔を思い出していた。

「懐かしいなあ〜」

「そうね」

少しテンションが上がった香里奈とは違い、里緒菜は少し顔を伏せた。

その様子に気付き、香里奈はロックグラスを置いた。

「まだ…気にしているの?消えた先輩達のことを」

「少しね」

空になったワイングラスに、ボトルを持った店員が注ぎに来た為、2人は会話を止めた。

グラスに入っていく琥珀色のワインを見つめてしまう。

店員が頭を下げて、2人がいるテーブルから離れると、里緒菜は言葉を続けた。

「未だに…警察も行方を探してくれているけど…」

高校の先輩だった中山美奈子が主宰する劇団に、少しであるが、里緒菜の会社は寄付をしていた。

さらに、親の知り合いからのコネで、ある歌手の自伝的な劇をやってほしいと依頼もしていたのだ。

しかし、美奈子は一度受けた依頼を断り…行方不明になったのだ。

それも1人きりではない。

里緒菜の後輩と一緒である。

「あたし達が高校生の時にも、何人か行方不明になったでしょ?あの時は、明菜だけは戻って来たけど…」

「明菜…?あっ!行方不明に二回なった子だ」

香里奈は思い出した。

沢村明菜…。演劇部だった里緒菜の後輩である。

「あたしは…あの2人がいなくなったなんて、未だに信じられないの。特に、中山部長は…とてもしっかりした人だったから…。迷っていたあたしの肩を押してくれた人だし…」

高校の時、直樹を好きだった為に、親友の香里奈とギクシャクしかけた里緒菜に、けじめをつけさせたのが、美奈子だった。

「あの人が…」

もうグラスに手を伸ばさない里緒菜に、香里奈は笑いかけた。

「きっとどこかで、元気にしてるわよ」

にっと笑うと手を伸ばし、ロックグラスで置いてあるワイングラスに乾杯した。 心地よい音がした。

「ありがとう」

里緒菜はワイングラスを手に伸ばし、改めて香里奈と乾杯した。



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