天空のエトランゼ〜レクイエム編〜(前編)
「うちらの世界じゃ〜こんなのご法度ですよ。人間が滅ぶなんて」

「リアル過ぎるわ」

緑はソファーに座りながら、肩をすくめた。

「人間が滅んだら、魔物達がすべての地域を支配するだけですからね」

再び舞の指が、忙しく動き出した。

「この世界は、人間が支配している。繁栄の裏には、破滅がある」

高坂はちらりと、パソコンの画面を覗き見た。

「人間が支配しているのにですか?」

緑は、高坂に訊いた。

「だが…人間内で、差がある。平等ではないからな」

高坂は、フッと笑った。

「差ねえ〜。我々の世界もありましたけど…生きているのが、一番の成功者でしょ?」

「それは、つねに命を落とす危険がある者が感じる感覚だ。この世界では、紛争地域にでも行かない限りは、命の危機などない」

高坂は画面から視線を外すと、少し顔をしかめた。

「そんな安全な世界でありながら、破滅を夢見るか」

舞は、キーボードから手を離し、

「そんな願望の中に、不似合いなものを見つけましたよ」

にやりと笑った。

「うん?」

高坂は舞の後ろから、画面を覗き込んだ。

「希望ですよ」

「希望?」

「と言っても、絶望の後ですけどもね」

舞は、キーを指先で弾いた。

「?」

高坂は眉を寄せ、画面に映し出された文字を読み出した。

「世界が崩壊した後も、諦めずに希望を持って生きてほしい。そんなメッセージをある歌から感じた人が、書いているブログですよ」

舞は肩をすくめ、

「まあ〜詩を訳しても、そんなメッセージはありませんけど。単なるラブソングです」

「だけど…そう感じている人がいるのよね」

緑もそばに来て、画面を覗き込んだ。

「一万人いたら〜1人くらいかもしれないけど」

舞は、検索し過ぎて疲れた目を指でマッサージし出した。

「…でも、零ではないか」

高坂はパソコンから、離れた。

「まるで…パンドラの箱だな」
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