天空のエトランゼ〜レクイエム編〜(前編)
「コーヒーでいいかしら?」

「え―!おはざん、紅茶は!」

麗菜の隣に座った和恵が、カウンター内を覗き込んだ。

「紅茶は切れてます。ソフトドリンクは後で、酒屋が届けてくれるけど…」

里美はコーヒーの用意をしながら、

「コーヒーは、ここの伝統よ。恵子ママの時からね。明日香だって、ずっとこのコーヒーを飲んでいたんだから」

麗菜にウィンクした。

「!?」

緊張している麗菜は、何も言えなかった。

そんな麗菜に微笑むと、里美はコーヒーの入ったカップを2人の前に置いた。

「どうぞ」

「ありがとうございます。頂きます」

麗菜は頭を下げてから、カップを手にした。

「にが!」

隣で顔をしかめた和恵に気付き、里美はミルクと砂糖を出した。

「…」

恐る恐るカップに口を近付けて、コーヒーを飲む麗菜。

(飲める!味がわかる)

ぱっと笑顔になった麗菜を見て、里美はまた微笑んだ。

和恵の隣に座っている志乃は、何も言わずにただ2人を見守っていた。

「コーヒー飲んだら、上のあたしの部屋にいかない?」

満足気にカップを置いた麗菜とは違い、顔をしかめながらカップを置いた和恵がきいた。

「え!あ、あのお…」

予想外のさらなる誘いに少し戸惑ったが、麗菜はやんわりと断った。

「ごめんなさい…。用があるの」

「残念」

和恵は、肩を落とした。

「ゆっくりしていけば、いいのに」

ちらっと和恵を見た後、里美は麗菜に顔を向けた。

「いいのよ!おばさん。あたしが大路学園の近くで偶然出会って、無理矢理連れてきたんだから」

和恵は、少し困った顔をしてしまった麗菜を見つめながら、そう言った後、

「でも、もう一杯飲む?」

にやりと笑った。

あまりの感動で、麗菜は一気にコーヒーを飲み干してしまったのだ。

「あっ」

カップ内に気付いた麗菜は、これではあまりにも帰るのが早すぎると思い、おかわりをすることにした。

「はい」

里美は麗菜のカップに手を伸ばすと、再びコーヒーを注いだ。
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