天空のエトランゼ〜レクイエム編〜(前編)
「すいませんが…その歌手のこと教えて頂けませんか?」

真剣な表情で訊いてくる麗菜に、少し気圧された志乃はううんと頷いた。

「お願いします」

頭を下げた麗菜を、カウンター内から里美はじっと見つめていた。

「わ、わかったわ」

志乃は話し出した。

和恵のクラスメイトといっても、初対面である。

それなのに何故か…断ることのできない強さを、和恵の瞳は持っていた。

「歌手の名は、レダ。彼女のヒット曲…」

志乃は、説明し出すと冷静さを取り出してきた。

(この子は…あの歌に込められたメッセージに気付いている?)

そのことが意味するのは…。

(この子は!)

志乃が心の中で感動している間に、説明は終わった。

「…」

麗菜は思い詰めた顔をすると、一気に残りのコーヒーを飲み干した。

「ご馳走様でした」

カップをゆっくりと、里美の方に戻した。

「え!もう帰るの?」

慌てて、和恵はカウンターから体を起き上がらせた。

「ごめんなさい。もう時間なの!」

扉へと走ろうとした麗菜を、里美が止めた。


「待って!」

「!」

鋭い声に、麗菜は思わず足を止め、振り返った。

「そのレダって歌手に、興味があるんだったら…行ってみない」

いつのまにか、里美の指と指の間に…コンサートのチケットが 挟まれていた。

「あたしの分なんだけど…やっぱり仕事だから行けないし…。勿体ないから、あなた代わりに行ってくれると助かるわ。興味があるんだったらだけど」

里美の言葉に、麗菜は目を輝かせながら、頷いた。

「はい!」

その力強い返事に、里美も笑顔で頷いた。

「え!赤星さんがいくなら、あたしも一緒に行きたい」

「あんたは、昨日行ったでしょ!それとも何かしら?あたしと行ったらから、つまらなかったと!」

「そ、そんなことはないよ」

和恵と志乃のやり取りを見て、軽く溜め息をつくと、里美は麗菜に向かって、チケットを差し出した。

「一枚しかないから…」

「ありがとうございます」

遠慮なく受け取った麗菜に最後、里美は告げた。

「よかったら、ここに来て感想きかせてね」



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