天空のエトランゼ〜レクイエム編〜(前編)
「結局!わからなかったじゃないの!」

真っ暗になった校舎内を歩く里奈と夏希。

「まあ〜そんな簡単にわかる訳がないけどね」

苛立つ里奈に、少し呆れながら溜め息をつく夏希。

見上げれば、月が出ていた。

「あたし…いくね」

正門を出ると、夏希はいつもと違う方向に歩き出した。

どうやら、学習塾に通い出したらしい。

「…やっと、暇になったと思ったのに」

夜の戸張の中へ歩いていく夏希の遠ざかる背中を、しばし見送った後、里奈は駅に向けて歩き出した。




「いくぞ」

里奈と夏希が正門を出てから5分後に、高坂とさやかが姿を見せた。

勝手に1人で前を歩く高坂に、さやかは少しふくれてしまった。

「折角…2人で見に行くのに」

二枚のチケットを手に取ると、深く溜め息をつき、

「そんな気分じゃ…いけないのは、わかるけども」

さらに足を速めた高坂の背中を軽く睨んだ。

「ぐずぐずするなよ」

高坂は足を止めることなく、ちらっと振り返った。

「フン」

さやかはチケットを握り締めると、スピードを上げ、一気に高坂を追い越した。

「あんたこそ、ぐずぐずするんじゃないよ」

振り返ると、自分を睨んださやかの剣幕に、高坂は思わず足を止めた。

「な、何…怒ってるんだ?」

首を傾げた高坂に、理由がわかるはずがなく、ただ足を速めた。




「レダ…」

和恵に見送られながら、ダブルケイを後にした麗菜は呟くように言った。

(恐らく…彼女は)

そして、口を紡ぐと、心の中で念じた。

(ああ…多分な)

頭の中に声が響いた。

「モード・チェンジ」

微かに唇を振るわせて、麗菜は言葉を発した。



「あっ!」

ドアを閉めようとした手を止めて、和恵は動きを止めた。

「大丈夫かな?」

ダブルケイからの帰り道は、少し暗い。

心配になって、店の前の道に飛び出した和恵が見たものは…見知らぬ背中だった。

「足…速!」

もう見えなくなったと判断した和恵は、店の中に戻って行った。
< 83 / 295 >

この作品をシェア

pagetop