天空のエトランゼ〜レクイエム編〜(前編)
「やつらがいるかもしれない。用心をして、あたしで行こう」

美奈子は暗闇を見つめながら、気を探った。

(電車で行きますか?)

頭に響く麗菜の声に、

「いや」

美奈子は首を横に振ると、

「敢えて、走っていくぞ」

山手の道から眼下に広がる町並みに向けてジャンプした。

(先輩!?)

驚く麗菜の声に、美奈子はこたえた。

「電車とかでやつらに会ったら、厄介だ」

ダブルケイの近くにある地下鉄の駅を飛び越え、美奈子は…暗くなった市街地の屋根を疾走する。

「心配するな!魔力は抑えている」

と言っても、特急電車より速い。

上空を一気に駆け抜ける影に、普通の人間が気づくはずもなかった。




「間に合うのかな」

ダブルケイに入った和恵は、店内にある柱時計に目を向けた。


「開演時間には、間に合わないだろうけど…ライブは見れるわよ」

里美も時計に目をやりながら、開演時間と営業時間を確認した。

カラン…。

その時、店の扉が開いた。

「あら〜。少し早かったかしら?」

店内に入ってきたのは、赤いワンピースを着た女性だった。

壊れそう程華奢な体に見えるのに、凛とした出で立ちは、はっとさせるくらいの強さを漂わせていた。

「いらっしゃいませ。どうぞ、カウンターの方へ」

里美は、女性に頭を下げた。

それを見た和恵は、店内照明を変える為に、カウンター横の厨房に走った。

少し早いが、開店である。

「失礼するわ」

カウンターに座った女性の前に、里美はコースターをそっと指で移動させた。

「ご注文の方は、如何致しましょうか??」

里美の言葉に、女性は微笑み、

「この世界の飲み物にあまり、詳しくないの」

コースターを見つめた。

「?」

意味がわからなかったが、里美も営業スマイルを崩さない。

「そうね…」

女性はクスッと笑うと、視線を上げ、

「炎も消える程の冷たい飲み物を頂けるかしら。冷たければ…何でもいいわ」

里美に微笑みかけた。
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