天空のエトランゼ〜レクイエム編〜(前編)
「!」

数秒だけ絶句した後、里美は頭を下げた。

「かしこまりました」

そして、キンキンに冷やしたジンをストレートで、出すことに決めた。





「人間くさいな」

思わず顔をしかめた男の名は、刈谷雄大。

ブルーワールドから、実世界へと時空間を越えた刈谷は、夜の大月学園から、外に出ていた。

目的は、リンネを探すことであるが…予想外の人間臭に、驚いていた。

普通の魔物であれば、興奮し、殺戮を繰り返すところであるが…魔神である刈谷は、その衝動を抑えることができた。

「それ以上に、空気が汚れている。やはり…人間とは」

そこまで考えて、刈谷は思考を止めた。

「人間に、リンネ様が興味をもたれている限りは…致し方無い」

自分に言い聞かせるように呟くと、刈谷はリンネを求めて歩き出した。

その様子を離れた場所から、完全に気配を消して見ていた者がいた。

幾多流である。

「やつが、この世界に!?」

魔神である刈谷とやりあう気はなかった幾多は、ただ様子を伺っていた。

「彼は、化け物かい?少し違った臭いがするけども」

幾多の後ろに、グレイのコートを羽織った男がいた。

「化け物?異世界の魔神だよ」

幾多は振り返ることなく、こたえた。

「ふ〜ん」

男は鼻を鳴らした後、幾多の前に出た。

闇に消えた刈谷の方を見つめながら、

「なかなか興味深いけど〜人間でないならば、別にいいや」

肩をすくめると、幾多の方に振り返って微笑んだ。

「ところで、君は〜今日、人を殺さないのかい?」

「フン」

幾多は鼻を鳴らすと、男に背を向けて、刈谷とは反対方向に歩き出した。

そんな幾多の背中に、男は声を放った。

「公にはなっていないが、君は殺人者として有名だ。それも大量殺人としてだ」

「残念ながら…別に、殺人が趣味ではない」

足を止めない幾多に、男は声を荒げた。

「それは、困る!僕は腹ぺこなんだよ。もう何日も食べていないんだよ」
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