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彼女は、あの人のお姫様だ。

来年の夏に結婚するって言ってたっけな。

「桃井さん、陣内さんに用事ですか?」

あの人の名前が出たとたん、心臓がドキッと鳴った。

口は正直じゃないくせに、心臓は正直だと思った。

「ううん、ちょっときて見ただけ」

首を横に振って、笑顔を作った。

「ひまわりちゃんは?」

彼女に聞くと、
「わたしは、お昼を届けに」
と、笑って答えた。

少女のような、無垢な笑顔だった。

この世の中の悪いことを知らないと言うような感じだ。
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