1107
「おっと、ヤバい」

姫島さんは立ちあがった。

「いったん家に帰らないと」

口ではそう言っているけど、どこかに余裕を感じる。

仕事あるんだよね?

会社勤めなんだよね?

そう思って彼を見ていたら、
「じゃ、またね」

長身の躰を私と同じ目線に屈んだと思ったら、チュッと音を立てた。

…チュッ?

一瞬の出来事に、私は訳がわからなかった。

姫島さんは嬉しそうに笑うと、
「じゃ」

背中を見せると、私の前を去った。

バタンと、玄関のドアが閉まる音が大きく聞こえた。
< 8 / 127 >

この作品をシェア

pagetop